先日、海を渡って「DenTech China デンテックチャイナ 2024-中国国際歯科展示会-」を視察してまいりました。DenTech China デンテックチャイナは、1994年に初開催されてから、中国で製造された高品質でコストパフォーマンスの高い歯科製品や機器を探す海外のバイヤー、流通業者、貿易業者が参加する一大展示イベントです。今年は2024年10月24日~27日の4日間、中国企業を中心に世界各国から約1,000社の出展社が最新の製品を手に、中国上海市の上海世界博覧館で開催されました。東京ビッグサイトよりやや大きい上海世界博覧館の8ホールを貸し切って、最新の歯科製品・機材が一堂に会する画は壮観でした。
日本国内では4年に一度のワールドデンタルショーと、毎年秋に東京デンタルショーが開催されていますが、「果たして中国の展示会は日本とどう違うのか?」、興味津々でDeltan社員が覗いてまいりましたので、現地の様子を少しだけシェアさせていただければと思います。
目次
日本と中国、歯科の常識の違い
DenTech China デンテックチャイナ 2024の概要・展示製品紹介
小話(上海は未来都市でした)
日本と中国、歯科の常識の違い
その前に、まず前提として日本と中国の歯科業界の違いについて説明させてください。日本はご存知のとおり国民皆保険制度によって国民が国内で受診する場合は原則3割負担の費用で医療の提供を受けられるため、海外では自費診療が一般的とされる歯科医療においても保険診療という枠が広く設けられています。この制度は患者である国民はもとより歯科医療従事者の保護や医療水準の維持・発展に役立っている側面もありますが、一方で世界全体と比較して、歯科医療技術の高さのわりに低価格で提供されています。
お隣の中国はというと、戸籍や就業の有無によって加入できる制度が2つに分かれており、公的医療保険制度でありながら強制加入と任意加入が並存しています。地域ごとに制度の運営方法・給付限度額・自己負担割合などが異なり、他地域で受診する場合は原則全額自己負担(一部償還も可能)です。そのため、都市圏とそれ以外で大きな格差があるのが現状で、よりいい病院や医師、よりレベルの高い医療サービスを求めると医療費の負担は高額になると言われています※1。
中国の歯科医院の総数は2022年末で122,248件。2022年3月の91,577件に比べ、9ヶ月で30,671件増加と急激にその数を増やしており、今年の2024年末で160,000件を超えると予測されています。かなりのスピード感で成長しているように思えますが、中国と日本の人口対比で考えると、中国が日本の約11倍強の人口に対し、歯科市場・歯科医院数ともに日本の2倍程度しか及びません※2。
それゆえ、ある現地のデータによると、中国の35~44歳人口のう蝕率は88.1%で受診率はわずか8.4%、57.6%の歯が失われているそうです。同様に、65~74歳人口のう蝕率は98.4%で治療を受けているのはわずか1.9%に留まっているのだとか。全土の人民には歯科医療が十分に行き届いていないことが明らかであると考えられます※3。
こうした制度運用の違いを背景に、日本と中国の歯科の間には提供する一般的な診療の内容や価格差が存在し、それに伴って、歯科医療の受診率や歯科医院・歯科技工所の数、歯科医療従事者の数、歯科医療機器や補綴物を中心とした主要製品など、歯科業界全体の構造が大きく異なっているという実情があります。
※1 損害保険ジャパン株式会社.「【中国の医療費】日本と異なる医療制度」. https://www.sompo-japan.co.jp/kinsurance/leisure/off/tips/pc/04_china/ (参照2024-11-18)
※2 船井総合研究所.「知られざる中国歯科市場について」. https://dental.funaisoken.co.jp/china_1/(参照2024-11-18)
※3 Dental Resource Asia. 「公立から私立へ:中国の歯科市場の進化」. https://dentalresourceasia.com/ja/from-public-to-private-evolution-of-chinas-dental-market/(参照2024-11-18)
さて、両国の歯科業界の違いをざっとご紹介したところで本題に戻ります。
「DenTech China デンテックチャイナ 2024」は入口から規模が大きな展示会でした。
DenTech China デンテックチャイナ 2024の概要・展示製品紹介
DenTech China デンテックチャイナ 2024 -中国国際歯科展示会- 入口
実は昨年北京でのデンタルショーも視察したのですが、今回の上海は北京より参加者数が多く賑わいを感じられました。出展企業のほとんどは国内企業であり、この点は日本の展示会と同様です。日本で馴染みのある企業やグローバルで有名な企業の展示もありました。国際と名の付く展示会ではありますが、多くの出展社は国内での新商材の取引商談が主要目的のようで、逆説的にいえば、先進国と比べると中国はまだまだ国内需要が伸び盛りであり、国内目線の製品・機器取引で充分に発展することを期待できる市場であると思われます。
出展各社の展示ブース
特に多く見受けられたのは、口腔内スキャナー(以下、IOS)とIOSに絡む補綴、インプラント、矯正ソリューションです。中でも補綴に関する製品展開は目立っていて、さまざまなIOSメーカーが独自のCADソフトを開発し、自社ブランドをアピールする動きが見て取れました。また1メーカーが、IOS→ミリング加工機→ジルコニアなどといった、補綴物の製作に関わる一連のデジタルソリューションを一気通貫して取り扱うケースが多く見られ、日本よりも比較的に大型の歯科医院が一般的である中国の市場に合わせたビジネス戦略を取っていると考えられます。前段で説明した市場特性が影響して、中国の歯科で使用されるIOSは国産の低価格帯が主体であり、世界的に展開する高価格帯機種はなかなかシェアを伸ばせていないようでした。
IOSにはじまり、一気通貫で展開されるデジタルソリューションの展示
各社の展示は、デザイン・規模・品質のどれにおいても優れた製品が増えていると感じました。それでいて価格は欧米製・日本製に比較して廉価です。決して品質を下げて製造しているわけではなく、大量に生産しているからこそ実現できる低価格。こうした高品質でコストパフォーマンスの高い製品を、1社ではなく中国各地の企業が生産できる土壌の国際競争力は極めて高いです。さらに国内市場もまだまだブルーオーシャンですので、中国の歯科製品企業の製品開発、革新のスピードが日本や欧米と比べて段違いに早いことも頷けます。向こう数十年は右肩上がりに伸びていくのではないかと、大きく期待できる展示の数々でした。
昨今の政治的情勢やより有望な市場展開が優先されるなど、なかなかフル・オープンという訳にはいかないかもしれませんが、歯科業界における日本と中国の取引がさらに発展し、双方がより良い歯科医療を提供できる社会になっていくことを期待したいですね。
小話(上海は未来都市でした)
超高層ビルが立ち並ぶ未来的な上海の街。ストリートや屋内外のいたるところで、「なんだかすごく新しい」という感覚になりました。監視カメラの数が異常なほど多かったり、1秒毎にレスポンスするタクシーのカーナビだったり、まるでSF映画の世界に入り込んだような。歴史と現代が共存する街として世界中から多くの観光客が訪れる東京ですが、上海はさらに一歩先を行く先進の街という印象です。街行く人々のITリテラシーは非常に高く、歯科業界においても日本のデジタル導入率は10%程度に対し、中国は30%と日本を大きく上回っています。3倍の差は大きいですね!どおりで展示がデジタルソリューション主力な訳です。
昔はマナーや清潔さを懸念する声もありましたが、どこもかしこも綺麗でしたし、空も青く晴れ渡っていました。テクノロジーを活用して昨日よりも進んだ明日を目指す姿勢、とてもいい刺激をいただきました…!
ホテルの部屋から望む早朝の上海の街
Deltan株式会社について
「歯科医療従事者とIT企業でテクノロジーを開発し、新しい時代をつくる。」をミッションに、ITサービスの提供や品質の高い医療機器の製造販売など、歯科業界全体の発展に貢献するために事業を運営しています。
住所:東京都品川区西五反田7-22-17 TOCビル6階
代表者:代表取締役 井上 佳洋
設立日:2019年10月
コーポレートサイト: https://www.deltan.co.jp/